労働審判の制度と特徴 裁判の話(4)

労働審判の流れ

 労働審判が申立れられると、裁判所は労働審判員名簿の中から2名の審判員を指定し、裁判官から選任した労働審判官1名との3名で労働審判委員会を組織し、当該事案を担当します。労働審判官は原則として、40日以内の日を指定して、事件関係人を呼び出す。期日は原則として第1回から第3回まで予定していますが、この期日の間隔はおおむね1か月開けられ、いずれの期日も審理が行われる他、積極的に調停が試みられます。
 事案が複雑であって第3回の期日では結論が出せないものであるようなときは、労働審判手続きを行う事が適当でないと判断されて、労働審判を行わずに終了。また調停が成立すれば、その時点で労働審判手続きは終了します。3回目の期日を経過しても調停が成立しないときは、労働審判が言い渡されます。
 調停の成立以外で審判が終了したときに、不服な当事者は訴訟に移行させることになるとされていますが、実務的に第1回の審理で調停成立を目指し、成立しない場合は労働審判手続きを行う事が適当ではないと判断され終了することが一般的です。   

特徴

 労働審判制度というのは、個別労働関係民事紛争に関し、裁判所において、裁判官(労働審判官)及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者(労働審判員)2名で組織する委員会(労働審判委員会)が当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合は労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係をふまえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判)をすることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ろうととするものです。

迅速性

労働審判法第15条は、速やかに争点及び証拠を整理して、原則として3回以内の審理で結論をださなければならないとして、迅速な終結をめざます。

審理

 第1回期日は申し込み後40日以内に指定しなければならない(労審則13条)。また、第2回期日、第3回期日はそれぞれ1か月の間隔をあけられることから申立て後3~4か月で審判が出されることになります。実務的には1回で終了します。

口頭弁論主義

 民事訴訟の実務では、書面が中心となって、当事者も主張は書面を提出することで行われる。まず、訴状にたいして被告から答弁書がだされ、この答弁書に書かれた事実に対する原告の反論が準備書面という名称の書面で主張されます。
 そしてこの準備書面にたいする被告の再反論が、また準備書面の形で提出され、争点が明確になるまでこれが続けられます。

専門性

 労働審判は裁判官と労使の専門家による合議体で組織され、そして労働審判委員の評決は過半数によるものとされていることから、労働審判員は裁判官と対等の立場で事件を評議し、審判するという強い権限をもっています。
 これは労働の現場を知っている労働問題の専門家が労働審判員として審判手続きに加わるこによって、該当事件の実情や、労使両当事者の意向に即した審理と調停、審判がなされることを期待されているからです。

柔軟性

 民事訴訟における判決は請求権があるかないかの判断しかなく、裁判上の調停以外あり得ないが、労働審判は「当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払い、物の引渡しその他財産上の給付を命じ、その他個別柔軟な労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。」(労審20条2項)とされます。これによって、たとえば解雇が無効である場合にも、当事者の実情によっては金銭解決も可能であるし、賃金未払いにおいて、分割支払いを命じることも考えられる。まさに柔軟な結論が導かれることが期待されています。