人選の合理性
主張立証の検討
人選の合理性に関する労働者側の主張立証
労働者側・受入れ側双方の要求や能力等のマッチングに限界があります。 ワークシェアリングによる労働時間の短縮や一時帰休 休業手当のコストがかかる上、代替性の低い業務には適用が困難。 非正規従業員との間の労働契約の解消 労務コストの高い正社員の割合が増え、雇用の弾力化が困難になる。 希望退職者の募集 退職条件にコストがかかる上、必要な人材が退職するおそれがあります。
労働者側がこの点に関する主張立証(積極否認・反証)をしようとする 場合、総合的に、(1)明示的な基準設定の要否、(2)基準自体の合理性の有 無、(3)基準適用に関する相当性のすべてを激しく争い、使用者側の反論と それに対する労働者側の再反論が積み重なることで、審理が長期化してしまうことがあります。また、基準自体の合理性については、労使間において主張が価値観の押し付け合いになる例もあります。 しかし、(1)明示的な基準の設定が絶対的な義務ではなく、(2)基準自体の 合理性についても経営判断が相当程度尊重されることについては前記のと おりです。しかも、企業の経費削減という短期的経済的合理性を追求すれば高額賃金の中高年労働者の解雇が合目的的であり、他方、従業員への ダメージの低さからすれば再就職が相対的に容易な若年労働者の解雇に合 理性があることと評価されやすいなど、基準の評価には両面の見方がある ことが多い12)0 他方、基準自体が非常に機械的なものであり、当てはめの客観性に問題が生じにくいような場合に、(3)基準の適用に関する相当性 に関する議論を続けてもあまり意味がないというべきです。 そうすると、ケースによっては、比較的早期の段階から、勝負は(2)基準 自体の合理性評価の問題であるとか、(3)基準の当該労働者に対する当てはめの問題である等と割り切った上で、主張立証をその論点に関する審理あるいは他の要素に関する審理に集中させる場合もあるでしょう。
人選の合理性に関する使用者側の主張立証上の留意点
まず、使用者側としては、・明示的な基準を設定していたのであれば、 関連する資料(労働者側に提示した説明文書や、使用者側の内部検討資料・取締役会議事録等)を早期に提出した方がいいです。また、・基準自体の合理性 の有無や、・基準適用に関する相当性については、往々にして主張の方 が膨らみがちなので、客観的な「証拠」に基づく、地に足の付いた議論 した方がいいでしょう。 ところで、・基準適用に関する相当性については、勤務態度や労働能力 による基準を設定していた場合に、労働者側から、当該労働者の勤務態度 の良さや労働能力の高さが強く主張されたことに過剰反応し、使用者側が 勤務態度の悪さや労働能力の低さを必要以上に再指摘することで、この点 が通常の普通解雇の成否が争われている事案と同程度にクローズアップされてしまい、審理が長期化してしまう ことがあります。 しかし、整理解雇は、労働者側に非違行為や能力不足等の事情がなく、あるいは、そうした事情が一定程度はあるが、解雇の合理性を基礎付けるには不十分な場合であっても有効とされる可能性のある解雇類型であるから、使用者側が、当該解雇は整理解雇である旨を明確に陳述した場合には、当該労働者の勤務態度や労働能力が普通解雇事由に該当するほどの深刻な問題ではないことを認めたものと扱われてもやむを得ないと割り切るべきである。仮に、当該労働者の問題が普通解雇事由に相当する程度のもので あったとすれば、主位的には普通解雇を主張し、一般的に成立要件の厳しい整理解雇は2 次的な主張となる場合が多いであろう ちょうど整理解雇を検討していたところであったので、当該労働者についても普通解雇をすることなく、 整理解雇のルートに乗せた旨の主張がなされることもあるが、そのような判断 をしたことのリスクは使用者側が負わなければなりません。そうすると、使用者側としては、あくまで整理解雇基準への当てはめの問題として、当該労働者の勤務態度や労働能力が整理解雇基準に該当するレベルであったこと を主張立証すれば足りるものと割り切り、他の要素との総合考慮の仕方に ついて説得的な主張をすることに力点を移すのが相当と考えられる場合もあります。