証明しなくてもよい事実

裁判では証明しなくてもよい事実があります。

裁判上の自白

 審理においては、弁論主義という当事者の申し出た主張や証拠を、裁判の根拠とするという事実認定の原則をとっています。争っている事実は裁判官による事実認定が必要になりますが、当事者が争わない意思を示している事実についてまでは、裁判官といえども証拠を取り調べて勝手に事実認定する必要はありません。

 口頭弁論や争点整理手続きでは、相手方が主張する自分に不利な事実について認めたり、明らかに争わないときは「裁判上の自白」が成立したものとして立証を必要としません。これを自白拘束といいます。

 裁判になる前に自分に不利な事実を認めていたとか、裁判が始まった後でも裁判所の手続き外で自分に不利な事実を認めているのというのは、裁判外の自白にすぎません。

 裁判外の自白の場合は立証が必要になります。ただし、そういった発言をすることは、自白している事実が真実であろうと推測させる証拠のひとつになります。

擬制自白

当事者が自分から積極的に自白したということではないのですが、自分に不利な相手方の主張にたいして、反論するでもなく、争う姿勢も明らかにしない場合、または口頭弁論期日に欠席した場合には、自白したものとして相手方の主張を認めたことになります。

 擬制自白は、裁判所は拘束しますが、当事者については拘束しません。つまり、当事者はその後の口頭弁論期日において、相手方が主張したことについて争う事ができるのです。

 けれども、争うタイミングが遅いということで制限される可能性はあります。

顕著な事実

たとえば、過去の歴史的な事件や大災害などはだれもが知っているような事実であり、裁判官は当事者の証拠提出による認定をする必要はありません。

 また、裁判官が職務上知ることができた事実は信頼性がみとめられるので、当事者側からの証拠の提出は不要です。

 裁判官は、裁判で法律を適用することを職務とし、日本国内の法令等は熟知しているのが前提ですから法令等について当事者は立証する必要性はありません。

 ただし、外国の法律や日本国内の自治体の条例、内部規律・通達などは裁判官が常に容易に知ることができるとは限りませんから、その文献などについては当事者提出を求められることがあります。

裁判上の自白は撤回が難しい

 自白をした当事者は、争いとなっている事実をあえて認めた以上はその自白と矛盾する主張はできませんし、上級審においても、一旦自白した事実を消すことができません。

自白を撤回できる場合は相手が同意したとき、他人の詐欺や脅迫などにより自白したとき、自白した事実が真実でないのに、そのことを知らずに錯誤で自白したときなど稀なケースに限られています。

 権利の自白とは

 労働問題の場合、労働者である原告が労働契約に基づいて解雇の撤回や未払い残業代などの訴訟を提起するのですが、使用者である被告が従業員であったことを自白したり、原告の期間の定めのない労働契約について特に否認しなかった場合や賃金の金額について被告に賃金月額〇〇万円支払っていた。などの主張をした場合は権利の自白になり、労働契約の存在を認めたことになります。しかし、労働契約そのものが問題となる場面も出てきます。期間の定めのある労働契約・期間の定めのない労働契約なのか?や被告が労働契約ではなく請負契約や出来高払いの契約なので従業員ではない。などの抗弁です。